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光州地方弁護士会訪問 ~日本と韓国の調停制度比較~

記事カテゴリ:所属弁護士の活動

弁護士 田邊正紀

 

1 光州地方弁護士会との交流

  愛知県弁護士会と韓国光州の地方弁護士会とは、2008年に交流を開始し、毎年交互に訪問を繰り返し、2017年には正式に友好協定を締結しました。

  光州は、韓国南西部に位置する都市です。芸術祭や、独裁政権に対する抵抗運動である光州事件の舞台となったこと、食事がおいしいことで有名で、「芸術の都、義の都、味の都」とも呼ばれています。

  今年は、愛知県弁護士会側が光州を訪問する年にあたり、11月3日から5日の日程で当事務所の田邊、原を含む16名の弁護士が参加しました。

  毎年訪問の際にはテーマを決めて共同セミナーを開催しており、今回の訪問では、両国の裁判外紛争解決制度(ADR制度)の比較というテーマでセミナーが開催され、両国合わせて約50名の弁護士が参加しました。

2 光州地方弁護士会の報告

  光州地方弁護士会側からは、「韓国の刑事調停制度の実務及びその問題点」というテーマで報告がなされました。

  刑事調停は、日本には存在しない制度ですが、詐欺、横領、背任、名誉棄損、知的財産権の侵害、医療紛争、賃金未払いなど、金銭取引や私的紛争に関係する刑事事件を中立的な第三者の調停によって、犯罪以前の平穏な状態に戻すことを目的とするものです(回復的私法)。韓国では、これら民事事件型告訴事件が急増し、検察官が事件を処理しきれなくなり、2006年4月にこの制度の導入を決定したそうです。

  検察官は、当事者の申請又は職権で捜査中の事件を刑事調停に回付することができます。刑事調停委員は、弁護士、法学部教授の他、医師、会計士、事業家などの民間専門家で構成され、各事件にはこれらの中から3人の調停委員が選任されます。調停手続は、同席で行われ、1件30分程度でほとんどの事件が1回で終了するとのことです。にもかかわらず、約60%の事件で調停が成立し、その履行率も80%を超えるとのことです。少し古い統計ですが、2016年の刑事調停の件数は半年で約6万件であり、このうちの約60%で調停が成立しているということですから、この手続の社会への貢献度の高さをうかがい知ることができます。

  このような高い成立率は、刑事調停の結果が検察官の事件処理にダイレクトに影響するからだと思われます。過去の統計によれば、刑事調停で合意が成立した場合の不起訴率は約88%であるのに対し、合意が成立しない場合の不起訴率は約41%となっているそうです。刑事調停が成立しない場合でも、刑事調停が成立しなかったという事情を被疑者に不利に考慮してはならないというルールは存在するようですが、刑事調停で合意が成立すれば、刑事処分を免れられる可能性が飛躍的に上昇することから、調停成立への高いインセンティブとなっていると思われます。

  日本では、民事、刑事、行政の手続が厳格に区別されているため、刑事事件の分野に私的紛争解決である調停を導入するには相当困難があると予想されます。

3 愛知県弁護士会の報告

  愛知県弁護士会側からは、弁護士会が主宰する紛争解決センターにおけるあっせん手続の報告がなされました。日本では、法務大臣が民間のADRを認証する制度が存在し、認証されたADRには、時効中断効、継続中の訴訟手続の中止、調停前置の充足などの効力が認められています。法務大臣の民間ADRの認証という制度は韓国には存在しません。それに加え、愛知県弁護士会では、医療ADR、金融ADR,国際ADRなど、様々な専門ADRを設置しているので、これらの制度の説明、アピールを行いました。愛知県弁護士会からの報告でいちばん韓国側の興味を引いたのは、運営費用の点だったようで、質疑応答ではたくさんの質問がなされました

4 歓迎晩餐会

  セミナー終了後には、毎年恒例の晩餐会が催されました。今年の訪問は、愛知県弁護士会と光州地方弁護士会が交流を始めて以来、最も日韓関係が悪化した中行われました。

  しかしながら、日韓双方のあいさつで強調されたのは、「このような国際情勢だからこそ民間の交流は活発にしなければならない」というものでした。2次会、3次会と続く交流の中で、愛知県弁護士会と光州地方弁護士会が長年培ってきた親交には変わりがないことが確認できました。