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ロンドンで国際家族法の弁護士とのネットワークを広げました

記事カテゴリ:所属弁護士の活動

弁護士 田邊正紀

弁護士 原さやか

 

2019年7月3日~5日の3日間、ロンドンにおいて開催されたThe International Centre for Family Law, Policy, and Practiceという団体主催のGender Inclusivity and Protecting the 21th Century Family(私たちの間では、通称「ロンドン家族法学会」と呼んでいます)に、当事務所から田邊正紀、原さやかの2名の弁護士が参加しました。弊所では多数の国際家事事件を扱っていますので、定期的にこの様な国際会議に出席して各国の情報を仕入れたり、外国の弁護士との人脈を広げたりしております。

 この会議は3年に1回ロンドンで開催されるもので、私たちは2016年に引き続き2回目の参加となります。会議では、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、オランダ、南アフリカなどの国を中心に、オランダ、アメリカ、ドイツ、イタリアなどに加え、イスラエル、ジンバブエ、ブラジルなどの裁判官、弁護士、大学教授などが発表者に名を連ねていました。会議では、それぞれの国において様々な状況にある子どもの権利をどのように守るかという点を中心に議論がなされました。たとえば、国際的な子の奪取に関するハーグ条約の適用場面に直面した子どもや、両親の離婚に巻き込まれた子ども、虐待を受けている子ども、 性同一性障害の子ども、未成年で妊娠した子どもなど、子どもの問題から各報告者の出身国における背景事情が見え非常に興味深い議論がなされました。その他、子どもの権利だけではなく、高齢者や障害のある大人権利の保護についても議論がなされました。

 私たちは、この間、複数の法律事務所を訪問し、法廷傍聴などを行いまいしたのでその様子を報告します。

1 Dawson Cornwell( www.dawsoncornwell.com )訪問

  Dawson Cornwellは、約40名の弁護士を抱えるロンドンでも有数の家族法を専門とする法律事務所です。この事務所では、国境を越えた子の連れ去りに関するハーグ事件を専門とするJames Netto弁護士からイギリスにおけるハーグ事件の処理状況をお聞きしました。各返還拒否事由についての説明を受けた後、日本では最も困難な分野である返還命令後の執行状況についてディスカッションしました。イギリスでは、返還命令後も子を引き渡さない場合には、返還命令を拒否している親に対する逮捕という手続が用意されており、これがプレッシャーとなって強制執行を拒否する親はほとんどいないということでした。日本もこの引き渡しの強制執行の改正が予定されていますが、これがうまく行くかどうかは今後の実務の運用にかかっています。

2 International Family Law Group LLP ( https://www.iflg.uk.com/ )

  3年前にも事務所訪問を行い、当事務所とはすでにアライアンス関係にあるInternational Family Law Group LLPのLucy Loizou弁護士とEmma Nash弁護士と昼食をとりながら、最近のイギリスにおける渉外家事事件の状況をお聞きしました。International Family Law Group LLPは、約15名の弁護士を有するロンドンにおける家族法の有力事務所です。国際家族法だけを扱う事務所あり、弁護士の多くが英語の他に外国語を話せるとのことです。イングランドにおいては、離婚時の財産分与や養育費請求のための財産開示制度が強力に定められており、裁判所からの開示命令に従わないと法廷侮辱罪による逮捕があり得るほか、ケイマン諸島やバージンアイランドなどのいわゆるタックスヘイブンといわれる地域に所在する財産の開示もかなりの確率で成功しているそうです。近時、日本でも海外に資産を隠匿する事例も増えていますが、いわゆる英連邦に属する国々では財産開示をあきらめる必要はなさそうです。

3 Royal Court of Justice (王立裁判所)訪問

  王立裁判所は、日本でいえば地方裁判所や家庭裁判所に該当するもので、約150の法廷を有し、民事事件、行政事件、家事事件を扱っています。王立裁判所の建物は新旧合わせて4棟の建物から成り立っていますが、最も古いメインビルディングは1882年に建築されたもので、2回の戦争の被害も免れ現在に至っています。

  同裁判所では、庁舎内を見学した後、David Williams裁判官とお話しする機会があり、特に国境を越えた子の連れ去りに関するハーグ事件に関してお話を伺いました。同裁判所では1年に約200件ものインカミングケース(外国から子どもを連れ去ってくるケース)を扱っているそうで、日本における件数との違いに驚きました。ハーグ条約案件については、判決で解決しようとなると常居所地に「帰す」もしくは「帰さない」の二択になってしまい実情に応じた柔軟解決ができません。そのため、イギリスでも調停を積極的に活用しているそうで、国境を越えて子供が連れ去られてしまった案件のサポートを行う慈善団体リユナイトと協力してハーグ案件についての調停を行っています。なお、当事務所の所属する愛知県弁護士会でもハーグ条約案件についてリユナイトと共同で二国間調停事業を行っております。ハーグ条約案件を扱う裁判官は以前は20名いたとのことですが、現在は16名に減らされておりその分裁判官一人当たりの負担が大きくなっているとのことでした。

  翌日、王立裁判所を再び訪れ、飛び込みで裁判の傍聴をしてみました。ロンドンの裁判所は、日本の裁判所と同じく、所持品検査はあるものの自由に出入りすることができ、法廷傍聴も自由に行うことができました。私が傍聴した事件は、病院が職員を解雇したことの正当性が争われているもので、病院側の最終弁論が行われている最中でした。王立裁判所の法廷は、天井が高く、窓から光が差し込み、壁際には判例集と思しき書籍が整然と並べられており、荘厳な雰囲気の中で行われていました。裁判官は、2階といってもよいほど高い法壇に座っており、当事者は向かい合うわけではなく、それぞれ裁判官の方に向かい、前席にバリスターが座り、その後ろにソリシターとクライアントが座っていました。約1時間にわたる最終弁論の間、バリスターはパソコンの画面を見ながら主張を展開し、時折挟まれる裁判官からの釈明にもアイパッドに収めた証拠のページを示しながら的確に回答していました。一方裁判官は、バリスターの主張を聞きながら書類にイエローマーカーで一生懸命線を引いていましが、残念ながら、民事事件ではイギリス裁判伝統のかつらの着用は廃止されたようで、裁判官も弁護士もかつらを着用していませんでした。

4 刑事裁判所傍聴

  王立裁判所とは別の場所にあるCentral Criminal Courtで、刑事事件の傍聴も行いました。私が傍聴した事件は、拳銃を使った殺人事件で陪審員による裁判で最終弁論が行われていました。

  刑事裁判所は、王立裁判所とは対照的に近代的な建物の中にあり、傍聴席は柵の後ろではなく、2階席となっていました。検察官グループと弁護人グループが裁判官に向かって相前後して着席して、12人の陪審員がそのやり取りを横から見ているような形でした。被告人は、法廷の最後列に設けられたガラス張りの座席の中に座っていました。被告人が、ガラス張りの部屋の中に入れられているのは逃走防止の趣旨だそうです。

  刑事裁判では、近代的な設備の法廷の中で、裁判官をはじめ検察官、弁護人もすべてイギリス裁判伝統のかつらをかぶっていました。なお、刑事裁判所の前では、極右支持者らが、移民排斥に関する罪で裁判を受けている被告人の解放を叫ぶデモを行っており、多数の警察も出動しかなり物々しい雰囲気でした。

5 法廷傍聴雑感

  前回の訪問時には、家事事件を専門に扱う家庭裁判所で法廷傍聴を行いました。今回の訪問を含めて、イギリスにおける主要な裁判の傍聴を行ったことになります。

まず感じたのが、イギリスの裁判所は伝統を大切にしつつ、現代風のアレンジもなされている点です。王立裁判所では、伝統的な部屋の中にもマイクが設置され、やり取りはすべて録音されているようでした。一方で最新の建物の中で伝統的なかつらをかぶって、パソコンの画面を見ながら弁論を行う風景などは伝統を重んじながら合理性の追求もなされていると感じました。

また、イギリスの裁判では関与する弁護士の数が日本と比較して圧倒的に多いと感じました。その一つの理由として、バリスターとソリシターの存在が挙げられると思います。イギリスでは、原則として、クライアントと面談し証拠を集める作業をソリシターが担当し、裁判所で法廷に立って法律的主張を繰り広げる役目をバリスターが担当します。最終弁論ともなれば、ソリシターもバリスターを補佐するために法廷に出席しますので、多数の弁護士が代理人席に座ることになります。また家庭裁判所における子の監護に関する事件においても、両親の代理人の他、子の代理人、ソーシャルワーカーなどの多数の人が裁判手続に参加していました。イギリスの弁護士費用が高額となるのもうなずけました。

  さらに、今回民事、刑事それぞれ1時間程度傍聴しましたが、その間行われていたのはいずれも最終弁論でした。日本の民事事件では最終弁論は書面の提出をもって代えることがほとんどですので、イギリスでは口頭主義が徹底されていると思いました。一方で、日本の裁判員裁判では、書面を読み上げる形で1時間以上にわたって最終弁論を行うことはタブーとされていますが、イギリスの刑事裁判ではこれが行われており、陪審審も集中力を途切らせることなくこれを聞いていたのが印象的でした。イギリスのものが本来の姿であることは理解できますが、裁判の効率性や実質化の観点からは日本の制度が一概に劣っているとも思えないことから、それぞれ国民性に基づいた違う制度として理解するほかないともいました。

 

 今回の英国訪問では、国境を越えた子どもの連れ去りに関するハーグ条約案件について、英国の最新事情を多く収集することが出来ました。弊所では、国境を越えた子どもの連れ去りに関するハーグ条約案件に関するご相談も受け付けておりますので、法律相談をご希望の方は相談フォームもしくはお電話にて、お気軽にご連絡ください。