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外国離婚判決の日本での承認

記事カテゴリ:法律知識

2021年11月

弁護士 田邊正紀

 外国の裁判所で離婚判決を受けた場合、これを日本の戸籍に反映したり、逆に外国判決に基づいて日本の戸籍に記載された離婚の無効を主張したりする場面が生じます。また、外国の裁判所における離婚判決で認められた養育費や財産分与を日本で強制執行により回収したい場面もあります。これらの場面において、外国の裁判所で取得した離婚判決(外国離婚判決)の日本国内での有効性は、民事訴訟法118条(外国裁判所の確定判決の効力)の規定に従って判断されます。以下、外国離婚判決の戸籍への反映の場面と裁判所でその有効性を争う場面の2つに分けてみていきたいと思います。

1 外国離婚判決の戸籍への反映

(1)戸籍届出義務者

 外国で離婚判決を受けた場合、戸籍への離婚の届け出義務を負っているのは、原則として、訴えを提起した人です。但し、訴えを提起したのが、外国人側である場合、離婚が認められても戸籍届出をしないことがありますので、その場合には、たとえ訴えを提起された側であったとしても、戸籍届出ができることになっています。

(2)戸籍届出の必要書類

 ここでは、外国で訴えを提起して、離婚判決を獲得した人が戸籍の届け出をする場合を例に説明します。戸籍届出をする際には、外国離婚判決の原本及びその全文の翻訳、確定証明書及びその翻訳のほか、裁判を起こされた側(被告)が裁判に参加していない場合には、訴状が被告に送達されたことの証明書とその翻訳を添付する必要があります。

 民事訴訟法118条では、当該外国裁判所に裁判管轄が認められることや相互保証があること(日本の離婚判決の効力が当該外国で認められること)が求められていますが、戸籍届出実務においては、これらの立証まで求められることはありません。

(3)親権者欄の記載

 外国の裁判所においては、離婚判決に際して両親のどちらか一方を親権者と定めることなく、共同親権と定めたり、子が裁判所の管轄内に住所を有しない場合には、離婚判決に際して子の親権や監護権について何も判断しない場合があります。これらの場合、戸籍の親権者の欄には、前者の場合「共同親権」、後者の場合「親権者の定めなし」との記載がなされます。

(4)まとめ

 名古屋国際法律事務所では、外国離婚判決の戸籍への反映手続のお手伝いをさせていただいております。お気軽にお問い合わせください。

2 外国離婚判決の有効性を争う場合

(1)外国判決の承認要件

 日本で外国離婚判決の効力が認められるためには、民事訴訟法118条の条件を満たすことが必要です。

(外国裁判所の確定判決の効力)

第百十八条 外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。

一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。

二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。

三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。

四 相互の保証があること。

(2)外国裁判所の裁判権が認められること

 「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」とは,「我が国の国際民訴法の原則からみて,当該外国裁判所の属する国(判決国)がその事件について国際裁判管轄を有すると積極的に認められることをいう」(最高裁判所平成26年 4月24日判決)とされています。すなわち、外国の裁判所が、日本で認められないような広い管轄原因により管轄を認めて離婚裁判をしたとしても、日本ではその外国離婚判決の効力は認められないということです。

 最も著名な例が、アメリカに居住する原告が、原告のみが当該州に6か月(カリフォルニアなど)や1年(ニューヨークなど)居住していたことを理由に離婚訴訟を提起した場合です。日本では、原告のみがいくら長期間日本国内に居住していても、日本の裁判所に国際裁判管轄は生じません。よって、外国の裁判所で原告の居住のみを理由とする管轄原因で管轄が認められて、離婚判決がなされたとしても、日本では当該外国離婚判決の効力は認められないということになります。

 2019年4月1日に人事訴訟法及び家事事件手続法が改正される前までは、「どのような場合に判決国が国際裁判管轄を有するかについては,これを直接に規定した法令がなく,また,よるべき条約や明確な国際法上の原則もいまだ確立されていないことからすれば,当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという理念により,条理に従って決するのが相当である」(最高裁判所平成10年4月28日判決)とされていました。

 しかしながら、2019年4月1日以降は、「民事訴訟法118条1号にいう外国裁判所の裁判権が認められるか否かについては,外国判決の効力を審査する時点における我が国の承認管轄規範に照らし,外国手続において管轄の基準とされる時期,すなわち起訴又は判決時における事実を判断すべきである。」(東京地方裁判所令和2年6月19日判決)との基準に従い、改正後の人事訴訟法及び家事事件手続法の国際裁判管轄の規定に従って判断されることになりました。

 この改正により、i. 判決国に被告が居住している場合、ii.原被告の最後の共通の住所地が当該裁判を行う国にあった場合、iii. 原被告双方が判決国の国籍を有する場合、iv. 被告が行方不明の場合、v. 外国でなされた判決が判決国で効力を有しない場合などに「判決国がその事件について国際裁判管轄を有する」とされることになりました。しかしながら、前記の通り、原告のみが一定期間判決国に居住していることを理由とする管轄や原被告がその国で裁判することを合意した場合や被告が応訴したことによる応訴管轄に基づく管轄などは、「外国裁判所に管轄が認められる」とはいえませんので注意が必要です。

(2)適式な呼び出しを受けていること

 外国離婚判決が日本で効力が認められるためには、敗訴した被告が訴訟の開始に必要な呼び出しを受けていること、すなわち外国の裁判所に提起された離婚訴訟の呼出し状の送達を受けていること、または、応訴している、すなわち被告が裁判に参加していることが必要です。

 外国の裁判所から日本の居住する当事者に呼出し状が適式に送達されてくる方法としては、大きく分けて中央当局送達と領事送達の方法があります。中央当局送達とは、外国の裁判所から当該国の外務省を通じて、日本の外務省に呼出し状の送達の依頼があり、日本の外務省が日本国内に居住する被告に呼出し状を送達するやり方です。領事送達とは、外国の在日本大使館や領事館を通じて、日本国内に居住する被告に呼出し状を送達するやり方です。これらのやり方で、呼出し状が送達されて、被告がこれを受領した場合には、適式な呼び出しがあったことになります。

 一方、外国の裁判所の中には、外国の裁判所から日本国内に居住する被告に対し、直接郵便で呼出し状を送達してくる場合があります。また、国によっては、裁判所ではなく原告自身が呼出し状を送達する仕組みの場合があり、この場合、日本の弁護士などが原告の代理人となって呼出し状を送達してくる場合があります。これらの方式で送達された呼出し状を受け取っても、適式な呼び出しを受けたとはいえませんので、外国離婚判決の効力が日本で認められることはありません。但し、これらの方式での呼び出しを受け、実際に外国裁判に参加したり、当該国の代理人を選任して外国裁判に参加した場合には、「応訴した」ことになり、適式な呼び出しを受けていないことを理由として外国離婚判決の日本での効力が否定されることはありませんので、注意してください。

 なお、被告が日本人の場合、訴状や呼出し状に日本語訳が付されていなかった場合には、適式な呼び出しがあったことにはならないというのが判例です。

(3)公序良俗違反

 外国の法律では、一定の別居期間があれば有責配偶者(浮気をした配偶者)からの離婚請求も認められるなど、離婚原因が日本とは異なることがあります。親権についても、日本では認められていない共同親権が認められていたリ、毎週末と長期休暇の半分程度の面形交流が認められるなど、日本の裁判所では到底出されないであろう面会交流を認める判決がなされることがあります。また、日本よりも高額の養育費が認定されたり、離婚後の配偶者に対する扶養義務が認められたり、場合によっては相手方の弁護士費用を負担することを命ずるなどすることがあります。

 判例は、「外国裁判所の判決が我が国の採用していない制度に基づく内容を含むからといって,その一事をもって直ちに民訴法118条3号の条件を満たさないということはできないが,それが我が国の法秩序の基本原則ないし基本理念と相容れないものと認められる場合には,その外国判決の内容が公の秩序に反するというべきである」(最高裁判所平成9年7月11日判決)としています。

 有責配偶者からの離婚請求については、「有責配偶者からの離婚請求が信義則に反する場合,離婚請求を認めることはできないという法理は,我が国の身分法秩序として確立さらにされており,その意味で重要なものであるというべきであって,十分尊重されなければならない」(東京家庭裁判所平成19年 9月11日判決)として、有責配偶者からの離婚請求を認容した外国離婚判決を承認しなかったものがあります。

 親権者の指定をしない外国離婚判決については、「親権者指定に関する裁判の脱漏があるからといって、当該離婚の裁判それ自体が無効なものになるものではない」(横浜地方裁判所平成11年3月30日判決)とされています。

 日本よりも高額な養育費を認定したり、離婚後扶養を認めたり相手方の弁護士費用の支払いを命じた判決については、よほど高額でない限り公序良俗に反するとの判断はなされていないようです。

(4)相互保証

 相互保証とは、日本の判決が日本と同等の条件で当該国において承認されることが保証されていない限り、日本でも当該国の判決の承認をしないというルールです。

 損害賠償請求などの金銭支払義務を認める判決については、アメリカやイギリス、EU諸国、韓国などの主要先進国については、それらの国でも日本の判決が承認され、執行される制度を有しているとされ、相互保証があるとされています。一方、中国やインド、東南アジア諸国との間には、判決の承認執行の相互保証はないとされています。よって、これらの国でなされた判決については、日本では承認されず、強制執行ができないことになります。養育費や財産分与などの金銭支払い義務については、これらと同様に扱われますので、主要先進国においてなされた判決に基づくものしか日本では執行ができません。

 しかしながら、離婚と親権に関しては、日本の協議離婚を正式な離婚として認めてくれる国は多くはありませんが、離婚判決の場合には、日本の離婚判決がほとんどの国で問題なく登録されます。国内には離婚制度を有しないフィリピンでさえも、外国離婚の承認手続が存在し、日本での離婚判決がフィリピンで承認され登録されています。

 よって、離婚判決のうち離婚を認める部分や親権者を指定する部分については、世界中ほとんどの国で相互承認があると考えてよいと思われます。

(5)まとめ

 これらすべての条件を満たしたときに外国離婚判決は日本で承認されることになります。

 養育費や財産分与については、地方裁判所において、民事執行法24条に基づく外国判決の執行判決を求めるなかでこれらの要件が審査されることになります。

 一方、離婚や親権に関しては、外国離婚判決に基づく離婚や親権の戸籍への記載が先行することが多いことから、外国離婚判決の効力を争う場合には、離婚無効確認請求という形をとることになります。この場合、外国離婚判決自体の無効確認ではなく、これが日本で承認されないことを前提として、日本国内の離婚無効及び婚姻関係の存在の確認を家庭裁判所に求めていくことになります(東京家庭裁判所平成19年 9月11日判決)。

 外国離婚判決に基づく養育費や財産分与の日本国内での強制執行や、外国離婚判決に基づいて一旦戸籍に記載されてしまった離婚の無効を求めていく事件は、非常に難しい法律問題を多く含んでいます。名古屋国際法律事務所では、これらの問題を抱えている依頼者の方を積極的に支援していきます。お気軽にお問い合わせください。