電話
052-433-4100
問い合わせ
En/日本語
En/日本語

国際家族法学会 in バンコクに参加しました

記事カテゴリ:所属弁護士の活動

2023年6月

所長 弁護士 田 邊 正 紀

 2023年5月31日から6月2日の日程でタイ・バンコクにおいて開催された国際家族法学会(IAFL : International Academy of Family Lawyers)のアジア太平洋支部、年次大会に参加しました。

 国際家族法学会は、1986年に設立された国際的な家族法を扱う弁護士の団体で、現在68の国と地域に約1000人の会員を有しています。入会するためには厳格な審査があり、日本人の会員は未だ9名です。私は、2022年に会員として認められましたので、今回の大会が初参加でした。大会には、オーストラリア、香港、アメリカなどを中心に約150人の弁護士が参加していました。

 初日は、ウェルカムレセプションに参加しました。他の法曹団体のパーティーでは、ビジネスロイヤーが大多数を占めており、国際家族法が専門であると自己紹介をすると何となく興味なさそうな反応をされることも多いですが、この大会では、国際家族法の中でも何が専門か、どこの国が専門かなどと次の質問が飛んで来て、話題に事欠くことはありませんでした。また、女性弁護士の人数が多いというのも家族法を扱う法曹団体の特徴かなと思います。レセプションの後は、香港の弁護士2人、シンガポールの弁護士2人と、今回日本から参加した弁護士3人で二次会?に赴き、親睦を深めました。

 2日目のプログラムは、「離婚時に隠し財産をどうやって発見するか」という実務的な話題から始まりました。多くの国ではディスカバリーの制度があったり、財産目録の開示義務があり、違反すると法廷侮辱罪などのペナルティがあるなど強制力のある制度が用意されている印象でした。日本はこの点、自ら相手方が保有している金融機関を支店まで含めて見つけ出さなければならず、隠し口座等を発見するための有効な法的手段を持っておらず、世界レベルからするとかなり遅れているという印象でした。この日の夜のプログラムでは、大会初参加の弁護士を招待するディナークルーズが行われました。私も、「初参加」枠でクルーズに参加しました。約40人のクルーズ参加者の中に15人程度の初参加者がおり、最後には自己紹介の時間が設けられるなど、初参加の人を積極的に会員として巻き込んでいくための仕組みが用意されていました。

 3日目のプログラムでは、ある架空の事例について7人ごとの20のグループに分かれて模擬陪審を行うというものがありました。子どもがいる国籍の異なる内縁カップルが第三国で関係を清算する場合の子どもの監護権や財産の清算について議論するものです。具体的には、夫は有名サッカー選手でしたが怪我のため引退し、現在はサーフショップを経営している一方、妻は大手会計事務所のパートナーでかなりの年収があり、お互いに仕事を優先して同居はしておらず、子どもはお互いの下で1年の半分ずつを過ごしているものの、夫婦が一緒に過ごすのは1年のうち数か月程度という関係だったという前提です。日本では、そもそも同居がない以上内縁関係の認定がされることはないと思われました。また、仮に夫が子どもを認知していたとしても夫が親権者とされることはあり得ない事案です。さらに、夫婦共同での財産形成の事実もなく、夫婦のどちらかが他方のキャリアを優先して自らのキャリアを断念したというような事情もうかがえませんでしたので、財産分与も離婚後扶養も認められる余地のない事案と思われました。しかし、私のグループは、香港とアメリカの弁護士が多数を占めていましたので、内縁については、子どもをもうけ、一方が他方のクレジットカードを利用するなど経済的相互依存関係もあったことから認定することとなりました。また、子どもの監護権は生物学的に夫婦の子であり、双方の監護に特段の問題はないことを理由に共同監護という認定がなされました。さらに、財産分与については、財産形成に関する貢献という考え方ではなく夫婦共同財産であるからお互い半分を取得する権利を認め、5年間の離婚後扶養についても単純に収入差が大きいことから、僅差でしたが認めることになりました。全体の結果としては、意外なことに内縁を認めない陪審グループがいくつも存在し、財産分与や離婚後扶養を認めない陪審グループも約半分ありました。国際的な紛争解決においては、判断主体によって全く異なる結論が出ることを再認識する機会となりました。この日は代理母出産のテーマの講演も行われました。タイの代理母出産の法制度設立のきっかけの一つが、1人の独身日本人男性が13人の子どもを代理出産させたことにあることを聞いて複雑な思いでした。

 約3年ぶりの現地での国際会議参加でしたが、やはり現地で会議に参加して親睦を深めることで、ネットワークが広がることを思い出させてくれました。今後も様々な機会に国際的なネットワークを広げていきたいと思います。