LAWASIA環境法会議に参加しました~パプアニューギニア・ポートモレスビー~
記事カテゴリ:所属弁護士の活動
2026年8月
弁護士 西村安杜夢
1 LAWASIA環境法会議の概要
2026年8月20日(木)から21日(金)にかけ、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーで開催されたLAWASIA環境法会議に参加しましたので、この場を借りて報告します。
LAWASIA(ローエイシア)はアジア・太平洋地域における法曹の集まりで、40以上の国及び地域の裁判官や弁護士、学者などが参加し、相互の交流を通じて、各国の司法制度、法律制度、法学教育制度が適切に整備・運用されるように協力しあい、地域社会の発展と国際交流を深めることを目的とした活動を行なっている組織です。
多様な分野で定期的に国際会議を開催しており、私は2023年に福岡で開催された人権大会、2025年にマレーシア・ペナンで開催された「家族と子どもの権利に関する国際会議」に続き、今回のLAWASIA環境法会議に参加しました。

会議場の中。コモンウェルス加盟国の国旗が掲げられている。
私が今回の会議の開催を知ったのは、約3ヶ月前、気候変動対策の分野に興味を持ち、NGOの活動に参画し始めた頃でした。私は気候変動分野について誇れる実績はないものの、世界の議論についていきたいと考え、会議への参加を決めました。結果的には、国際的な議論の動向を知り、各国の法曹関係者との関係を構築する素晴らしい経験ができました。
同会議は、ポートモレスビーの南西端の海辺に位置する「APEC Haus」で開催されました。APEC Hausは、その名の通り2018年にAPEC(アジア太平洋経済協力)の会議が開催された場所であり、海辺の景色を取り入れた開放感のあるデザイン、伝統彫刻や絵画が醸す文化的な雰囲気が印象的な会場でした。

会議場スナップ①

会議場スナップ②
会議には、パプアニューギニア法曹関係者を中心として、コモンウェルス(イギリス連邦)の加盟国であるオーストラリア、ニュージーランド、ソロモン諸島、トンガ、ガイアナや、(ひとえに私の不勉強によるものですが)今まであまり名前を聞いたことがなかった太平洋島嶼や地域からも、裁判官や弁護士が多く集いました。会場のスナップショットに映り込んだ各国の国旗を見るとイメージができるかと思います。
会議で議論されたテーマは多岐に渡りましたが、どれも現在の環境法分野において中心的なテーマでした(ほんの一例です)。
・2025年7月に国際司法裁判所(ICJ)が公表した勧告的意見(以下「ICJ勧告」)が環境法の諸原則適用に与える影響
・環境訴訟の代理人に対する嫌がらせ訴訟(「SLAPP」)への対処
・環境訴訟の執行における各国の連携
・環境関連紛争の解決におけるADR活用の現状及び可能性
合計8セッション、総勢30人以上の発表者・モデレーターにより会議が進行されました。発表テーマ、発表者については会議のウェブサイトで公表されている他、パプアニューギニア最高裁判所の公式録画によりYoutubeでも実際の内容が閲覧できますので、雰囲気を知りたい方は是非視聴してみてください。
2 会議が持つ歴史的意義
今回のパプアニューギニアでの開催は、タイミング及び立地の重要性・適格性という点で他に類を見ないものであったと思います。
(1)開催のタイミング
2025年7月にICJ(国際司法裁判所)の歴史的な勧告的意見の公表(国際法上、国家には気候変動対策をとる義務があるとするもの)により、気候変動が国際人権にかかわる法的問題であり、国家の責任という観点から司法が介入しうるものであるとの共通認識が形成された直後に行なわれた環境法会議であったことは、参加者の国家やこれに関わる法曹の責任についての認識を否応なしに高めるものだったと考えています。
(2)開催地
パプアニューギニアが気候変動で真っ先に直接的影響を受ける太平洋島嶼地域に属し、同地域からの会議参加者が大勢いたいう事実に留まりません。ソロモン諸島などの太平洋島嶼国の学生達(「Pacific Island Students Fighting Climate Change(気候変動と戦う太平洋諸島学生連合)」)の発起をきっかけとしてバヌアツがICJに気候変動に関する勧告的意見の発出を求めた結果、ICJ勧告に繋がったという経緯から、太平洋島嶼国の大国であるパプアニューギニアで会議が行なわれたことに地理的にも意義があると考えています。
会議の冒頭、同国の裁判官がプレゼンテーションの中で示し、その後会議中に複数の発表者によって引用された印象的な地図がありました。それは、「パプアニューギニアは世界の中心に位置している」ことを示したものでした(日本人にとっては馴染みがある構図ですが、西欧の参加者には馴染みがないものです)。
もちろん、世界に「中心」などありません。しかし、その地図は、パプアニューギニアが、まさに気候変動により自然、人々、地域の生存を(将来ではなく現に)脅かされている環太平洋地域の中心に位置しているという視角を参加者に与え、そこに当事者が集うことの重要性という新たな視点を提供してくれました。

パプアニューギニアが「世界の中心」にあるということを示す地図
私が今回特に感銘を受けたのは、(1)各国の最高裁長官や副長官、弁護士会長などがかなりの人数参加していたこと、(2)ホスト国であるパプアニューギニアの最高裁判所・高等裁判所(Supreme Court, National Court)が主体となってパワフルかつ効率的に会議を運営し、1日目のディナーを始めとしたパプアニューギニア独自のエンターテインメントを通じて参加者を魅了し続けたこと、そして、(3)最高裁判所を構成する裁判官のうちかなりの割合が2日間を通して参加しただけでなく、本会議が始まる前の2日間において、同国最高裁判所の判事30名以上がオーストラリア等から招かれた専門家らによる環境法に関するレクチャーをみっちりと受けたとのことであり、司法全体において同分野への関心及び危機感の高まりが極めて明瞭に感じられたことでした。

パプアニューギニアの最高裁長官による冒頭スピーチ
3 開発と環境破壊・人権侵害の関係性
パプアニューギニアは、豊富な天然資源(液化天然ガス、原油、金、銅、コバルト、木材、水産物、パーム油など)に恵まれ、輸出所得の70%を鉱物資源の輸出が占めています。忘れてはいけないのは、そういった事情によってパプアニューギニアが現在直面している開発と環境破壊・人権侵害のジレンマです。
同国はLNGの輸出国として、主に日本や中国などの東アジア地域にとって重要なエネルギー供給パートナーであり、現在も大規模なLNG採掘・輸出拠点の開発プロジェクトが計画されています。資源国において、旧来のエネルギー資源であるLNG開発が行なわれることで同国経済が潤うことを期待するのは当然です。しかし、法律家の立場からすると、環境法のみならず普遍的な人権擁護の観点から、当該開発が気候変動や環境破壊、違法または不公正な開発プロセスによって多種多様な人権侵害を引き起こす現実的なリスクを孕むことも、より重要な視点として指摘しなければなりません。
私がポートモレスビーの街や現地人とのカジュアルな会話を通じて感じたのは、高失業率という深刻な現実と、資源開発に対する市民の大きな期待の存在は否定できないという事実です。例えば、タクシーの運転手との会話では、ある大手の資源開発系外資企業がローカル人材を採用して国外で数ヶ月の研修を行なうことについて、外資系の中でも珍しくしっかりとローカル人材の教育を行なう企業であるとポジティブな印象を語っていました。
私たち先進国は、植民地支配やその進化形であるグローバリゼーションによる市場搾取構造によって利益を得つつ、長年、温室効果ガスを排出して経済発展を遂げてきました。パプアニューギニアの市民が必要な情報への完全なアクセスを保証され、十分な説明を受けた上で開発を承認するのであれば、他国が開発自体に口を挟むのは適切ではないでしょう(但し、温室効果ガスの削減義務の達成のため別の分野でのシビアな埋め合わせが必要になるかもしれません)。
しかし、パプアニューギニア市民は、同開発の恩恵を将来世代にわたり受けることができるのでしょうか。開発が行なわれる地域の住民、原住民の方々から、FPIC(Free, Prior and Informed Consent = 「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」)を行なう権利が剥奪・侵害される恐れはないでしょうか。ここでは中立的な視点を提供するに留めますが、よく考える必要があると思います。
最後に、パプアニューギニア最高裁判所の副長官が会議の冒頭で残した印象的な言葉を紹介したいと思います。”Participation without understanding is not consultation”、すなわち「理解が欠如した参加は無意味である」。この言葉を一国の最高裁判所副長官が述べたことは、同国の司法が人権擁護の最後の砦として機能し、FPICを抜きにした開発の推進は違法であり許さないという意思の表われであり、我々法律家の活動を勇気づけるものだと思います。

最高裁判所副長官の力強い言葉
4 「世界の中心」で抱いたリアルな感想
私は過去にパプアニューギニアへの渡航経験がありませんでしたが、外国での滞在にはある程度馴れており、他の地域とさほど変わらないだろうと気軽に考えていました。
しかし、インターネット検索から情報収集を開始したところ、初っぱなから「ポートモレスビーは世界で最も危険な街である」、「ナイフ無しには歩けない」など物騒なイメージを表象する単語(但し、今から考えればミスリーディングかつ現地の人に失礼な煽動的ワード)ばかりがヒットしていきました。
その他にも、外務省の渡航情報サイトではマラリアやデング熱、A型肝炎などの感染症にも注意が必要であるとアナウンスされるなど、意思の弱い私の渡航意欲を減退させかねないような情報がたくさん出てきました。妻からは、「滞在先のホテルと会議場との行き来以外は避け、街に出ないように」との厳粛なる命令が下されました。

いざというときに命綱となるはずのポートモレスビー日本大使館外観
しかし、丸3日間の滞在を終えての感想は、「何と人情味に溢れ、自然及び文化的な多様性に富んだ国なのだろう」というものです。現地の人々のフレンドリーさ、寛容さ、そして素敵な笑顔を忘れることはできません。
確かに、同国は極めて高い失業率を抱え、実際にポートモレスビー市街地を観察しても若者が街に溢れていることから、一部の若者が強盗や窃盗団を構成して犯罪行為を行なっているというのも現実であろうと思います。上述のポジティブな感想も、やはり「夜道は決して一人で歩かない」、「昼間でも信頼できる現地人と一緒でなければ単独で行かない」という同市を訪れる一般的な助言を否定するものではありません。
ただ、そのような負の側面がSNSなどであまりに強調され、同国のイメージを悪化させていることもまた事実だと思います。
現地の人と話すと、皆そのようなネガティブイメージが持たれていることを大変残念がっていました。パプアニューギニアは郊外を含めた観光資源が豊富にあり、2026年7月からは東京・成田空港とポートモレスビー・ジャクソン国際空港の間の直行便が(長期の中断を経て再度)運航を開始していることから、今後は日本人観光客やビジネスの行き来も期待されるところです。適切な注意喚起をすることは必要ですが、無責任にバイアスのかかった情報を拡散しないことの重要性を再認識しました。
帰国日、私は直行便でたったの6時間しか離れていない東京とポートモレスビーという2つの都市が、全く異なる発展段階にあることに違和感を抱きました。ポートモレスビーの街は、商業施設やビジネスセンターが並ぶ一方で、道端で火を起こして炊事する光景、バラック小屋のような商店、鉄格子で守られたマンションなど日本の街では見られない光景がありました。やはり東京に戻ってくると、都市の経済的機能、中間層のボリューム、安全性、清潔さなど全く別世界であるような感覚に陥りました。

地元ショッピングセンター

成田への直行便の機内食(PNGビールとタロイモを主食とした食事)
5 唯一の日本人参加者としての責務(?)
会議の約3週間前、私の元にパプアニューギニアの最高・高等裁判所(Supreme Court, National Court)裁判官から幸運なメールが届きました。
「このたびポートモレスビーで開催されるLAWASIA環境会議に、日本人の仲間(”colleague”)が来ることを知りました。(中略)私はパプアニューギニアの裁判官ですが、また日本という国を愛している一人でもあります。そのため、日本からあなたが来ることを知り、お茶でもどうかと思いご連絡しました。」
私は幸運にも、会議前日にレセプション会場を抜け出し、同国の裁判官及びその奥さんと夕食を共にさせて頂く機会に恵まれたのです。私は、会議の参加者として登録された唯一の日本人だったようです。
この方のように日本に良い印象をもって頂き、日本人参加者があると知っただけでお茶に誘って頂けることは、この上なく光栄で嬉しかった反面、その方が過去に日本に旅行することなどを通じて形成された日本や日本人に対する良好なイメージを壊してはならないと、(謎に?)責任を感じました。

夕食会場からの眺め
同裁判官は、イギリスで刑事事件に関わる検察官・弁護士・裁判官を経た後、コモンウェルスに加盟しているトンガの裁判官として3年間任官した後、2024年から現在のパプアニューギニアの裁判官に任官されました。パプアニューギニアのようなコモンウェルス(イギリス連邦)加盟国には、ローカル教育を受けた現地裁判官の中に、オーストラリアやニュージーランド、イギリスなどから派遣された裁判官が相当数混じり、裁判所を構成しています。
なお、現地弁護士は、ある民事裁判における証拠調べの段階で、パプアニューギニアの手続法に適切な規定が見あたらなかったことから、オーストラリアの最高裁判所規則の引用を主張したことがあると説明してくれました。直接適用はできないとしても、同じコモンウェルスの法に馴染みのある裁判官が判断する可能性が高いのであれば、なるほど有り得ない議論でもないなと思いました。
同裁判官のおかげで、2日間の会議を通じ、休憩時間やランチの時間にパプアニューギニアの最高裁長官を含む数多くの現地裁判官とお話しすることができました。最高裁長官からは、「私たちは日本の司法制度から色々と学びたいと思っているので、是非とも両国の法曹同士の交流を企画したい」との大変有り難いお言葉を拝受しました。
帰りがけ、お土産にと言って「ビルム」を頂きました。ビルムはパプアニューギニアの伝統的な手編みのバッグの袋で、現地の人は頭にかけて、食料を入れたり、時には赤ん坊を乗せたりして使うものだそうです(赤ん坊は安全性の点でどうなんだろうか?と思いますが・・・)。確かに、注意してみると街でも頭に袋をかけている女性を見かけました(写真を取り損ねました)。
6 太平洋地域において、日本人であるということ
ところで、会議にはICJ勧告に繋がるアクションの発起人の一人として活動した、ソロモン諸島出身の弁護士も発表者として参加しており、幸い、その方とお話しする機会にも恵まれました。素晴らしい活動を行なってきた弁護士であり、具体的に紹介しようとすると紙幅が足りませんが、その弁護士と出会ったことで感じたことを紹介します。
ソロモン諸島と言えば、第二次世界大戦中に日本軍と米軍との間の激戦地となったガダルカナル島を含む島嶼国です。と言いながら、私は恥ずかしながら「ソロモン諸島」という名前を聞いても具体的な場所のイメージも湧かず(後で調べたところ、ポートモレスビーから東に約1400km、飛行機で2時間程度の距離にあることを知りました。)、ガダルカナル島との関連も思いつきませんでした。このような認識の欠如は、かつての加害国の市民として、とても恥ずかしいものだと感じました。
また、休憩時間の参加者とのふとした会話でも、出身地を訪ね、「○○島」出身であるとの答えが返ってきたのに対し、私はその島名を認識することができませんでした。しかし、その方によれば、その島も第二次世界大戦中に日本軍が上陸した島だったそうです。
私はこれまで、戦争について一年で最も意識が高まる8月という時期においてさえ、太平洋の島々での悲惨な出来事について思いを馳せることはできていませんでした。しかし、実際に関係した島々出身の人と話したことで、自らの勉強不足を恥じ、歴史を学ぶ必要があると再認識しました。

飛行機から見た太平洋
7 おまけ:最後まで諦めなかった者に微笑んだ幸運の女神
国際会議に呼ばれて発表するような弁護士には、私のような一介の凡人弁護士の他、長年実績を積み上げてきたレジェンドのような人と、先進的でクリエイティブな活動を行なっている若手・中堅のスターのような人が一定数含まれています。
私は、会議に参加しながら、今後のために是非とも関係を築いておきたいと思う方を見つけると、終了後に少し時間をおき、(やや緊張しながら突撃して)ご挨拶をするようにしています。今回、世界の気候変動訴訟の傾向についての発表を行なったイギリスのピンドハム弁護士も、その一人でした。しかし、会議後の混雑もあり、会議期間中に挨拶をすることがかないませんでした。
帰国日、私は同弁護士と何とか連絡が取れないかとイギリス弁護士会のウェブサイトや同弁護士についての記事をリサーチしながら、お声がけができなかったことを悔いていました。充実した会議期間を過ごした後の「唯一の心残り」と言っても過言ではありませんでした。すると、帰国便のチケット発行のための長い列(ポートモレスビーのジャクソン国際空港のチケットカウンターは非常に混雑するので、早めに空港に行かれることをお勧めします)に並んでいた際、丁度、私の後ろに、同弁護士が現われたのでした。私が是非お話ししたかったことや気候変動変動に取り組む弁護士の同僚がいることなどを伝えると、喜んでお話ししてくださりました。
もしこれをお読みになっている方の中に今後国際会議に参加される方がいらっしゃれば、やはり具体的にお話ししたい方がいるならば、人混みをかき分けてでも挨拶をしにいくべきだと思います。今回は幸運の女神に助けられましたが、女神が常に微笑むとは限らないので。
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会議場からのスナップ

