モンゴル法制度視察~発展著しいモンゴル~
記事カテゴリ:所属弁護士の活動
2025年9月
弁護士 高田浩史
2025年9月22日(月)及び23日(火)に、モンゴルの法曹関係の機関を訪問し、モンゴルの法制度について視察を行いました。日本から長く法制備支援を行っており、近年発展著しいモンゴルの法曹養成制度・法制度を中心に調査を行ってきました。
1 法曹協会への訪問
モンゴル法曹協会で、会長を表敬訪問し、意見交換を行いました。
モンゴルで法曹になるためは、大学法学部を卒業後、2年間の弁護士事務所の助手など実務経験を経た後、法律家になるための司法試験を受験します。この法律家試験の合格率は20%程度です。法律家試験に合格すると、弁護士になるための司法試験の受験資格を得ます。この弁護士試験は、合格率が40%程度です。弁護士試験に合格すれば、弁護士会へ名簿登録を経て、弁護士として活動できます。裁判官や検察官になるためには、法律家として3年間の実務経験を積んだ後、裁判官や検察官になるための司法試験をそれぞれ受験することができます。裁判官や検察官になるための各司法試験に合格すると、裁判官や検察官に任官できます。
法曹協会は、強制加入団体で、法律家全員が加入しており、会員数は約7000人です。そのうち、550人は裁判官、580人が検察官、3500人が弁護士、300人が公証人、2000人くらいが会社や行政機関にいる組織内弁護士と言われています(2025年9月現在)。
法曹協会は、法律の規定に基づき設立された団体で、各司法試験を実施するほか、司法試験の受験者や法律家に対し研修を提供し、より優れた法律家を輩出することを目的としています。
日本と比べて、モンゴルの法律家の特徴は、女性が多いことです。日本の法曹人国に占める女性の割合は、20%程度だと言われていますが、モンゴルでは約58%が女性だといいます。
モンゴルの法曹協会は、裁判官や検察官、公証人も所属しているため、モンゴルでは、裁判官や検察官、公証人も、プロボノ活動に参加するという利点があります。
モンゴルには、法曹協会のほかに弁護士だけが加入する弁護士会もあります。懲戒処分の役割分担が問題となりますが、会員が罪を犯したなど、重大な非違行為をした場合、法律家としての資格を奪うのが相当だと思われるときは、法曹協会が懲戒処分を行います。比較的軽微な非違行為をした場合など、法律家の資格を残しつつ弁護士としての資格を奪うのが相当だと思われるときは、弁護士会が懲戒処分を行います。
2 国会議員との面談
弁護士として18年間活動した後、選挙に立候補して国会議員に当選した国会議員と面談を行いました。
モンゴルは、現在、民主主義ですが、歴史は浅く、1991年から選挙が始まりました。大統領は、国会議員から選ばず、国民から候補者が立候補し、選ばれます。2024年に選挙法が改正され、76人だった国会議員数を126人まで増加させました。この新しい選挙制度により当選した3人のうち2人は、新規当選の議員で、25%が女性だったといいます。女性議員の多くは、比例代表から選ばれており、比例代表の候補者名簿は男性と女性の割合を等しくした政党が多かったようです。国民からの評判も良かったとのことです。
モンゴルには、昔は国会議員を輩出する政党が2つしかありませんでしたが、現在は、5つまで増えました。
議員は、現在、家庭裁判所の設置法の成立に向け、取り組んでいると言います。予算要求が通るか否かが重要とのことでした。

3 裁判所の見学
モンゴル行政裁判所の第一審裁判所及び控訴裁判所の法廷を見学しました。法廷には、カメラが設置されており、動画を撮影して、オンラインで、ライブ配信されていると言います。モンゴルの裁判所は、日本の裁判所より格段に裁判の公開が進んでおり、驚きました。かつては、司法記者が取材するため法廷を傍聴しに来ており、法廷には記者専用のブースが設置されていましたが、オンライン配信が始まってから、記者が法廷に来ることはなくなったと言います。
裁判の期日には、当事者もオンラインで参加することができるそうで、法廷には裁判官のみが座っていることが多いとのことです。

4 モンゴル司法アカデミー
モンゴル司法アカデミーにおいて、憲法・国際法セクター長から、モンゴルにおける外国判決の執行について、講義が行われました。モンゴルでは、外国判決の執行率が15%しかなく、低いことが課題だと言います。
モンゴルの裁判所において、外国判決を強制執行するためには、相互の保証があること、判決が確定していること、外国裁判所に裁判権が認められること、及び当事者が訴訟参加したこと(本人または代理人が弁論したこと)が必要です。これらが満たされると、裁判所が執行人に対し、執行令状を出します。債務者の資産にについて情報収集が必要な場合は、裁判所が、銀行等に対し、執行人への情報提供を求める依頼書を出します。
モンゴルでは、外国判決の内容が、モンゴルの公序良俗に違反する場合に、強制執行できるのかどうか、まだ不明です。たとえば、モンゴルでは、慰謝料請求権が限定的にしか認められていません(最近は、慰謝料請求を認める判決が出され始めているとのこと)。外国で慰謝料請求を認容する判決が、モンゴルで執行できるか否かが、予想される争点です。

愛知県弁護士会からは、瀧島委員長から、日本における国際取引に関する司法判断の執行について講演を行いました。日本では、懲罰的損害賠償請求を認容する判決は、公序良俗に反することを理由に執行することができないこと、近年、財産開示手続等の債務者の財産を調査する制度が整備されたことが紹介されました。
5 モンゴル弁護士会への訪問
モンゴル弁護士会では、会員の弁護士たちに対し、研修を行ったり、利益を守る活動をしたりしています。モンゴルでは、凶悪犯罪の加害者の刑事弁護を行う弁護士に対し、社会から、誹謗中傷がなされることがあります。モンゴル弁護士会は、メディアに対し、刑事弁護の意義に関する広報活動を行うことで、会員弁護士たちが活動しやすい環境を構築する取り組みを行っています。
6 弁護士事務所への訪問
モンゴルで活動するオユー弁護士の運営するAVARON LEXを訪問し、所属弁護士から実務家の生の声を聴きました。
モンゴルで行政訴訟を得意とする弁護士によると、モンゴルの行政訴訟では、被告の行政機関が証拠を持っているのに、それを裁判所に提出しないことにより、原告側が立証困難となることが課題です。別の弁護士は、個人的な意見としながら、モンゴルの裁判所は、税務訴訟においては、行政機関の判断を追認することが多く、自ら法を解釈適用することをやめてしまったようだと述べていました。
7 モンゴル国立大学
訪問した日本の弁護士から、モンゴル国立大学で、日本法を学ぶ学生らに対し、日本の法制度に関する講演を行いました。
まず、瀧島委員長が、挨拶を行いました。愛知県弁護士会の国際委員会の役割などについて、説明がされました。
知念弁護士から、日本の交通事故に関する講義が行われました。交通事故が発生した場合の、保険会社による交渉、弁護士の交渉、民事訴訟を経て、解決に至るプロセスや、損害賠償額などを紹介しました。日本の法制度を学ぶことを通じて、モンゴルの法制度をより深く理解してほしいとメッセージを送りました。
新美弁護士からは、日本の刑事弁護について講義が行われました。被疑者の身体拘束に対する期間制限など捜査の手続について紹介がなされました。そのほか、黙秘権や国選弁護人制度など被疑者の権利、保釈請求や示談交渉など弁護活動についても解説がなされました。
モンゴル国立大学の学生たちからは、弁護士になることができたら、民事事件だけではなく、刑事弁護にも取り組みたいという声が出されました。
名古屋大学日本法教育研究センターが、モンゴル国立大学法学部内に設置され、名古屋大学法制国際教育協力研究センターにより運営されています。学部生に対し、日本語で、日本の法制度や法律を教える活動をしています。モンゴル法の知識を持ちながら、批判的な問題意識を持つことを通じて、モンゴルの法改革に貢献し、日本との懸け橋となる人材育成を行うことを目的としています。

モンゴル視察中、移動するバスの中から、首都ウランバートル市内を見ると、いくつもの高層ビルが建設中でした。都心を少し出ると、草原が広がっていますが、いたるところで宅地の開発工事が行われていました。ウランバートルの経済発展の勢いの強さを感じました。
他方で、休日に、草原のゲルテントに宿泊し、観光客向けの乗馬を体験させてもらい、馬に乗って丘の上へ連れて行ってもらいました。すると不思議と、仕事で疲れた気持ちが晴れていきました。モンゴルでは、「心を清めるには山に登れ、病を治すには馬に乗れ」ということわざがあるといいます。本当なんだと感じました。


