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人事訴訟・家事事件の国際裁判管轄~新しい国際離婚裁判のルール~

記事カテゴリ:法律知識

投稿弁護士:田邊 正紀

2019年4月1日から外国人や外国に居住する日本人などが関係する国際離婚などの家事事件の新しい管轄のルールがスタートしました。これは「国際裁判管轄」と呼ばれるルールで「どのような事件が日本で裁判できるか」を定めるものです。
これは、あくまで日本の裁判所の管轄を定めるもので、日本で裁判ができるから外国で裁判ができないという結論になるわけではなく、外国の裁判所で裁判できるかどうかは、その国の法律を調査しないといけません。

家事事件の中でもっとも典型的な国際離婚のケースを例に見ていきます。
これまで外国人や外国に居住する人などが関係する国際離婚を日本の裁判所で扱えるか否かを定めた法律はなく、国際離婚事件が提訴されると判例に従って、国際裁判管轄を認めるか否かが審理されていました。
従前の判例が、日本の裁判所に管轄を認めてきたのは、「被告の住所が日本にある場合」「被告が原告を遺棄した場合」「被告が行方不明の場合」「これらに準じる場合」(最高裁判所昭和39年3月25日判決)及び「外国で離婚訴訟を提起することができない場合」(最高裁判所平成8年6月24日)といわれています。
しかしながら、実際には、無断帰国を広く「遺棄」に含めたり、被告が日本国籍を有することを考慮したり、被告が弁護士を雇っていることを考慮したりなど、かなり広い範囲で日本の裁判所に国際離婚の裁判管轄が認められるようになってきていました。

 これら実務を踏襲し、2019年4月1日に施行された人事訴訟法では、以下の通り、かなり広く、日本の裁判所に国際離婚事件の国際裁判管轄を認めることとしました。
1 被告の住所、それが知れないときは居所が日本国内にあるとき(同第3条の2第1号)
2 被告が死亡時に日本国内に住所を有していたとき(同第3号)
3 当事者双方が日本国籍を有するとき(同第5号)
4 当事者の最後の共通の住所が日本国内にあったとき(同第6号)
5 被告が行方不明であるとき(同第7号)
6 外国の裁判所での離婚判決が日本国内で効力を有しないとき(同第7号)
7 その他特別な事情があるとき(同第7号)
人事訴訟法 )
 これらの規定は、従前の判例を広くとらえた実務に近いものですが、これまでは正面から認められてこなかった国籍を基礎とした3の管轄が新たに導入されました。この規定が導入されたことで、夫婦ともに外国に居住する日本人同士が日本の裁判所で離婚裁判ができるようになった一方、外国で日本人と結婚した日本国籍を含む二重国籍の外国人が、日本語も話せず、日本に居住したこともないような場合でも、配偶者から日本で裁判を起こされてしまう危険が出てきました。このような場合には、「特別の事情による訴えの却下」を求めることを検討することになります。
 また、今回の改正においても導入されなかった規定として「合意管轄」があります。例えば、外国で外国籍の夫と結婚して暮らしていた日本人妻が、結婚生活も外国生活も嫌になって日本に帰国した場合、いくら外国籍の夫が日本で裁判をすることに合意をしても、上記のいずれにも当てはまらないため、日本人妻が日本で離婚裁判を提起することはできません。
 なお、諸外国には、他国で離婚訴訟が係属している場合、自国での離婚訴訟の進行を停止させる制度を有している国もあります。しかしながら、日本はこのよう場合について、従前から訴訟の進行を停止する扱いをしておらず、改正法においても特別な規定は置かれませんでした。

 諸外国では、離婚後も子どもに対して原則として共同で親権を行使するとされていることが多いのに対して、日本では、少なくとも両親の一方が日本人の場合には、日本法を適用して単独親権しか認めないとされており、離婚裁判の際に必ずどちらか一方の親を親権者と決めなければなりません。また養育費の金額や計算方法も適用される法律によってかなりの違いがあります。どこの国で離婚裁判を行うか検討する際には、このようなことも慎重に考慮しなければなりません。

 また、日本では、離婚裁判の前に必ず離婚調停を経なければならないことになっています(調停前置主義)。離婚調停は、以下の場合に日本の裁判所が国際管轄を有します。
1 相手方の住所、それが知れないときは居所が日本国内にあるとき
2 離婚訴訟の管轄が日本にあるとき
3 当事者が日本の裁判所で離婚調停を行うことを合意したとき
 離婚訴訟では合意管轄が認められていませんが、離婚調停では認められています。これは離婚の合意をしていても外国(アメリカなど)で離婚を承認してもらうために、協議離婚ではなく、調停離婚を選択する必要がある場合などに活用することが可能です。一方で、いったん合意をして日本で離婚調停を行ってみたものの調停が成立せず、離婚訴訟に移行する場合には、離婚訴訟においては合意管轄が認められないことから困難が生じる場合も予想されます。改正法では裁判所の判断で離婚調停を行った裁判所が離婚訴訟を扱うことも可能とされていますので、利用を検討する必要があります。

 この法律の施行により、離婚訴訟を含め家事事件の国際裁判管轄は分かりやすいものとなりましたので、日本で裁判ができるかどうかの判断がしやすくなりました。また、従前よりも広く日本の裁判所に国際裁判管轄が認められるようになりましたので、「日本で離婚できない」とあきらめていた方も、もう一度日本での離婚手続を考えてみてもよいかもしれません。