タラーク(Talaq)離婚判決を得ました

2025年6月

弁護士　田　邊　正　紀

　この度、イスラム法上の離婚の方式であるタラークが適用されて離婚が認められた判決を得ましたので、ご報告させていただきます。

１　「タラーク離婚（Talaq divorce）」とは

　「タラーク離婚（Talaq divorce）」とは、イスラム教における離婚の一形態で、主に夫が妻に対して一方的に離婚を宣言することによって成立する離婚制度です。タラーク離婚にもいくつか種類がありますが、もっとも有名なものは、夫が「タラーク、タラーク、タラーク」と3回唱えると即時に離婚が成立するというものです。

　夫側の一方的宣言により離婚が成立するため、男女平等に反するとか女性の人権侵害などの問題があると言われており、インドでは、2019年にタラーク離婚は違法とされ廃止されています。しかしながら、サウジアラビア、イラン、パキスタン、バングラデシュなどのイスラム法国では、有効な離婚方法とされています。

　日本においても、同じ国籍の人同士の離婚裁判では、当事者の国籍国の法律が適用されますので、両当事者がイスラム教を信仰している同国人の場合には、タラーク離婚が適用される可能性があります。

２「タラーク離婚」に関する判例

　この点に関する最も有名な判例は、東京家庭裁判所平成31年1月17日判決です。判決は、「タラーク」と3回唱えるタイプのタラーク離婚に関して、タラーク離婚を認めることは日本の公序良俗に反するとして、タラーク離婚の適用を認めず、日本法を適用して離婚を認める判決をしています。この判決については、タラーク離婚の適用自体が日本の公序良俗に反すると判断したのか、タラーク離婚の適用の結果が日本の公序良俗に反すると判断したのか解釈が分かれていますが、いずれにしても「日本ではタラーク離婚が認められない」と言われる一番の根拠となっている判決です。

３　名古屋家庭裁判所令和6年11月27日判決

　今回の裁判の当事者は、同一国籍であり、いずれもイスラム教を信仰していました。

　今回の裁判で、原告は、いくつかあるタラーク離婚のうち、「全能の神の名において妻と性交渉しないことを宣誓し性交のないまま４カ月経過すると離婚が成立する方法」を選択しました。「タラーク」と3回唱える離婚方法は、公序良俗に反するとされる可能性が高いと考えたため、より安全な方法を選んだということになります。

　判決は、夫婦関係が回復し難い程度に破綻していること、両当事者が、強いイスラム法の宗教的文化的背景を持っていることから、外国法の排除には一定程度謙抑的であるべきことなどを理由として、タラーク離婚は公序良俗に反しないとされ、離婚が認められました。

４　名古屋高等裁判所令和7年6月12日判決

　本件は控訴されましたが、控訴審でもタラーク離婚は日本の公序良俗に反しないとされ、離婚が認められました。

　控訴審判決は、外国法の適用が公序良俗に反するか否かは、外国法の規定自体を抽象的に判断するのではなく、具体的に適用した結果が公序に反する場合に、はじめてその適用が排除されるべきと明確に判断しました。また、外国法の適用を排除するためには、その事案が日本社会との間に密接な関連性（内国関連性）があることが必要であるという付加的条件を付けました。

　その上で、前者については、別居が長期間に及んでいること、夫婦関係が回復し難い程度に破綻していることを認定し、日本の公序良俗に反しないと判断しました。後者については、前者の論点で公序良俗に反しないと判断した以上、いかに内国関連性が強くても、それだけで外国法の適用を排除すべきではないと判断しました。

５　離婚を希望するイスラム法を信仰する方へ

　あなたがイスラム法を信仰していたとしても、配偶者の方が日本人ないしあなたとは違う国籍の方の場合、原則として、日本国内で離婚裁判を行う場合には、日本法が適用されます。したがって、タラーク離婚が認められる余地はなく、日本の民法に従って離婚原因を主張していく必要があります。

　あなたと配偶者が同じ国の出身で、いずれもイスラム教を信仰している場合には、原則として、あなたの国の法律に従って離婚する必要があります。イスラム法が適用される場合、今回紹介したタラーク離婚以外にも、さまざまな特殊な離婚制度が存在することがありますので、ぜひ専門弁護士にご相談ください。

　ご依頼方法

　まずは法律相談で事案の内容をお聞きし、解決までの道筋をお示しします。

　初回相談料は、１時間1万1000円です。名古屋国際法律事務所では、法律相談を受けた後、安心してお帰りいただけるよう、初回相談から専門性の高い情報を提供するよう力を入れて取り組んでいるため、相談は有料とさせていただいております。