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パリ弁護士会の研修制度“Stage International“

記事カテゴリ:所属弁護士の活動

2023年4月
弁護士 河西辰哉

1 研修の概要


 2022年10月3日~11月25日にかけて、パリ弁護士会の主催する各国の若手弁護士向けの研修Stage International に参加しました。ヨーロッパ・アフリカ等のフランス語圏からの参加者が中心でしたが、アジア・南米等の非フランス語圏からも参加があり、合計24か国から34名の弁護士が集いました。実は当初は2020年の研修に参加する予定でしたが、新型コロナウィルスのまん延の影響を受けて中止となってしまったため、今回3年ぶりの開催となり、無事参加することができました。久しぶりの開催ということもあってか、全世界から500件以上の参加応募があったとのことです。

 1か月目は主にパリ弁護士会の研修機関であるパリ弁護士養成学校(École de Formation professionnelle des Barreaux, EFB)にてフランスの法制度等の講義を受け、裁判所など主要な司法機関等を訪問し、2カ月目は各参加者がパリの弁護士事務所でインターンをしました。

 1枚目の写真はEFBのエントランス、2枚目の写真はパリ弁護士会の建物の入口です。

2 フランスの法制度について

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 1か月目の講義では、フランスの民事・刑事の実体法・手続法、労働法、家族法、弁護士倫理、弁論技術またEU法など多様な法制度について講義を受けました。そのうち当事務所でも扱うことの多い家族法の分野の中で、離婚や親権等の制度について少しだけご紹介したいと思います。

 フランスにも合意に基づく裁判外の離婚の制度があります。ただし日本のように当事者が役所に届け出をすれば済むわけではなく、離婚合意には各配偶者の弁護士が関与し、公証人によって登録される必要があります(フランス民法229-1条)。当該合意には、補償給付(prestation compensatoire。離婚により生じる各当事者の生活レベルの不均衡を是正するための離婚に際しての給付。同270条)の有無、夫婦共有財産の清算などについてなどを記載しなければ無効となります(同229-3条)。

 また、1年以上別居し、夫婦関係が回復不可能に破綻していることを原因として離婚を申し立てることができる点も特徴的です(同238条)。

 なお夫婦に未成年の子がいて、その子が裁判官に自らの意見を述べることを希望する場合には、裁判所を通して離婚しなければなりません(同229-2条)。離婚後も夫婦間の子については共同親権が原則ですが(同372条、373-2条)、子の利益のために必要な場合は裁判官が単独親権を命じることもできます(同373-2-1条)。

 なお私の思うこの研修の一番の醍醐味は、冒頭でも述べた通り、世界中の多くの国から弁護士が集っており、それぞれの国の法制度の違いについて知ることができる点です。例えばアフリカのある国では、初めての婚姻時に一夫一妻か一夫多妻のいずれの制度に服するかを選択し、これを以後生涯にわたって変更することができないとのことです(私のフランス語の理解力の問題もあり、正確性は保証できませんが…)。

3 フランスの裁判所について

 パリにある様々な裁判所を訪問することもできました。パリ司法裁判所(Tribunal Judiciaire de Paris)、パリ控訴院(Cour d’Appel de Paris)、破棄院(Cour de Cassation)、コンセイユ・デタ(Conseil d’État)、憲法院(Conseil Constitutionnel)などを訪問し、事件を傍聴することができました。

 以下の1枚目の写真は、パリ司法裁判所、2枚目の写真がパリ控訴院の外観です。司法裁判所はガラス張りの現代的な建物で、ホールが大きな吹き抜けとなっており、全体的に開放感があって明るい造りになっていました。これとは対称的に控訴院は荘厳な外観・内装となっており、フランスの司法の歴史の長さを感じさせるものでした。なおパリ控訴院の法廷は、国際商業会議所(ICC)の仲裁でも用いられています。

 実際に事件を傍聴し、また講義を受ける中で感じたことは、フランスでは日本に比べて、裁判手続における口頭での弁論技術を重視しているように感じました。民事裁判の判決前に行われる弁論では、双方の当事者が、ただ原稿を読むだけでなく、裁判官を説得するための工夫をしながら、時には裁判官や相手方の弁護士とのやりとりを交えながら弁論がなされていました。研修の中でも弁論術の授業が2日間にわたり教授されました。なおその他の講義でも、文書やパワーポイントの資料無しで、ひたすら何時間も話し続けるという形式が多く、私を含めフランス語ネイティブでない参加者を苦しめました。

 また実際に事件を傍聴する中で、裁判官・書記官・弁護士について女性の占める割合が非常に多いと感じました。私の傍聴した事件ではほぼすべての事件で女性の裁判官が担当していました。またフランスの弁護士は2020年時点で約57%を女性が占めているとのことです 。パリの大学のある法学の授業では、受講生の8割ほどが女性という話も現地の弁護士から聞きました。

4 パリの弁護士事務所でのインターン

 2カ月目のインターンでは、フランスに来る外国人の庇護申請(自国での危険から他国に保護を求めるもの)を多く取り扱う弁護士の下で研修をさせて頂きました。

 両国の庇護申請・難民申請の割合を比較すると、フランスでは2020年の庇護申請の第一次手続における保護決定の割合は約23.2%(保護数20866/決定数89774)であり、異議申立手続における同割合は約24.3%(保護数10254/決定数42025)です 。他方、日本では2020年の難民認定申請の第一次手続・不服申立手続における難民認定・人道配慮の割合は約0.1 %(難民認定数47+人道配慮数44/一次処理件数5439-取下数1916+不服申立処理件数6475-取下数1203)です 。このように庇護・難民認定率が高いフランスにおいては、事案の見通しやアドバイスの内容も、日本におけるそれとは大きく異なるものでした。日本の実務では難民認定は難しいと思われるケースにおいても、担当弁護士から十分にチャンスがあるとの見通しが示された事案もありました。

 また滞在資格のない外国人の収容の延長の可否を決める裁判を傍聴する機会がありました。このような司法審査の制度が存在すること自体が驚きですが(2023年に提案された日本の入管法改正案においても、収容に係る司法審査は予定されていません)、収容を延長する決定に際しても、体調が悪いと訴える被収容者には医師への受診を裁判官が収容施設に命じたり、帰国を希望しない被収容者にはその理由に応じて庇護申請の方法を教示したり、日本とはあまりに異なる外国人収容の制度とその運用に驚きました。

 写真は庇護権裁判所(Cour nationale du droit d‘asile: CNDA)の標識です。フランスでは、難民及び無国籍者保護局 (Office français de protection des réfugiés et apatrides: OFPRA)が庇護申請の受付・審査を行い、その却下決定に対する異議申立てを、庇護権裁判所という専門の裁判所で審査します。


5 最後に

 弁護士はどこの国でも多忙のようであり、参加者のほぼ全員が、自国での自らの担当事件への対応をしながら研修を受講していました。また宿泊費も物価も高いパリに2カ月間滞在することは、どの国の参加者にとっても痛い出費のようでした(なお円安・燃料費高騰が追い打ちをかけました)。それでも世界各国の弁護士と、コロナ禍の中でも実際に一つの場所に集まって、2カ月という長期にわたって学び合えたことには大きな意義があったと思いますし、それほどの魅力がパリという都市やフランスという国にはあるのだと思います。ぜひまた、仕事かそうでないかにかかわらず、パリに戻りたいです。