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相続登記義務化と外国相続

記事カテゴリ:法律知識

2022年8月

弁護士 田 邊 正 紀

 2021年4月に「民法」及び「不動産登記法」が改正され、2024年4月1日から、相続した不動産の所有権移転登記が義務化され、相続による不動産の取得を知ってから3年以内に相続登記をしないと罰則(10万円以下の過料)が科される可能性があることになりました。(民法等の一部を改正する法律、令和3年法律第24号)この相続登記義務は、2024年4月1日以前に発生した相続にも適用されますので、今現在、相続登記が完了していない皆さんも相続による所有権移転登記義務の例外ではないということになります。

 相続登記ができない理由はいろいろとありますが、その中の一つに相続人の一部が外国に居住していて連絡が取れない、連絡は取れるが協力してもらえないなどということが理由で、遺産分割協議が滞っている場合があります。確かに、このような場合、手続も複雑で何から始めたらよいかわからない場合もありますが、お子様の世代に問題を先送りしないためにも、すみやかに相続登記手続に着手することをお勧めします。

 外国に居住する相続人が関係する事案でも、私たち名古屋国際法律事務所では、解決策をご提案することが可能です。

1 外国に居住して相続人が、遺産分割に協力してくれない場合

 相続人が外国に居住している場合や外国人の相続人の場合、長年連絡を取っていないことで親族間の信頼関係がなくなっていたり、言葉が通じないことでコミュニケーションがうまくいかなかったり、相続に関する法制度が異なることで説明をしてもわかってもらえない場合など、様々な理由で遺産分割に協力が得られないことがあります。特に欧米の国々では、相続手続は裁判所が関与するプロベイトという手続によって行われることになっていることが多く、他の相続人から私的な契約書である遺産分割協議書に署名を求められるということ自体に違和感を持たれる場合があります。

 私たち名古屋国際法律事務所では、外国に居住する相続人に対し、直接もしくは現地の弁護士を通じて、日本の法制度や遺産の状況、他の相続人の状況、各相続人の権利、義務などについて説明をすることで、遺産分割協議への協力を求めるお手伝いをさせていただきます。

 外国に居住する相続人の協力がどうしても得られない場合には、家庭裁判所に対して、遺産分割審判を申し立て、裁判所に遺産分割内容を決定してもらう手続をとります。遺産分割審判書は、外国に居住している相続人にも送付又は送達する必要がありますが、裁判所が「特別送達」という厳格な方法を選択した場合には、外交ルートを通じた「外国送達」の手続をとる必要があり、時間を要する場合があります。

 また、外国籍の相続人がいる場合には、誰が法定相続人であるかを立証する資料も相続人の協力がなければ入手できない場合があります。日本には戸籍制度があり、戸籍をたどっていけば、相続人が誰かが判明する制度となっていますが、戸籍制度ないし類似の制度があるのは、中国、韓国、台湾などの限られた国だけです。一般的には相続人の方に協力してもらって、両親の名前の記載のある出生証明書、配偶者の名前の記載のある婚姻証明書などの提供を受けなければ、相続人の立証ができないことになります。また、これらの書類だけでは、婚外子がいるか、認知した子がいるかなどは分かりませんので、「他に相続人がいない旨の宣誓供述書」の作成なども依頼する必要があります。

2 外国に居住していて居場所が分からない相続人がいる場合

 外国に居住していることは分かっているものの、居場所が分からない法定相続人がいる場合には、まずは所在を確認する努力をすることになります。

 相続人が、日本に滞在しているか、外国に滞在しているかは、東京出入国在留管理局に対して、弁護士会を通じた「出入国記録」の照会を行うことで確認することが可能です。また、外国に居住している相続人が、日本人である場合には、配偶者または三親等以内の親族から、外務省に対して「所在調査」を依頼することができ、本人がいずれかの大使館・領事館に「在留届」を提出している場合には、所在が判明することがあります。相続人が所在している可能性のある住所が分かっている場合や親族の住所が分かっている場合には、その住所に対してEMSなど配達証明付き郵便で所在確認の手紙を出すなどします。

 居場所を探す努力をしたうえで、どうしても居場所が分からない場合には、家庭裁判所に遺産分割審判の申立を行った上で、「外国公示送達」の手続をとることになります。「公示送達」とは、裁判関係の書類の送達先が分からない場合に、裁判所の掲示板に一定期間当該書類を張り出すことで、当事者に送達されたものとみなす制度です。これにより、実際に当事者に書類が届いていなくても、遺産分割審判などの手続を進めることができるようになります。当事者が国内に居住している場合には、掲示後2週間で送達の効力が発生しますが、当事者が外国に居住している場合には、効力発生までに6週間を要します。

 なお、遺産分割審判では、一般的には、外国に居住する居場所が分からない相続人に対しても法定相続分に従って遺産の一部が与えられますので、これを管理していく「不在者財産管理人」を選任する必要が生じることもあります。「不在者財産管理人」とは、行方不明の人に代わって、その人の財産を管理する人で、家庭裁判所が選任します。

 裁判所は、ときに相続人の外国における住所が不明と認定するために、外国の住所に対する現地調査を要求するなど、かなりハードルの高い調査を要求してくることがあります。名古屋国際法律事務所では、外国に居住する相続人の所在調査に関しても、必要な場合には外国の法律事務所とも連携して、最後までお手伝いさせていただきます。

3 相続人に外国人がいる場合の相続登記

 相続人に外国人がいる場合、相続登記のための遺産分割協議書の作成方法や相続登記にも日本人の場合とは異なる工夫が必要になります。

 相続人が日本人の場合には、法定相続人であることの証明は、戸籍謄本や除籍謄本、原戸籍などで行い、署名の真正は印鑑登録証明書によって行います。一方、相続人が外国人の場合には、相続人であることの証明は、出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書に加えて、「他に相続人がいないことの宣誓供述書」などで行います。一般的にこれらの書類は外国語で作成されていますので、翻訳を添付する必要があります。また、署名の真正は、当該国の公証人による公証で行うことが一般的です。また、日本語のみで作成された遺産分割協議書への署名を躊躇する相続人もいますので、遺産分割協議書自体を日本語と現地語の併記で作成するなどの工夫も必要となることがあります。

 登記をきちんと完了させるためには、事前に法務局との綿密な打ち合わせをしておく必要があります。これらの手続も、名古屋国際法律事務所がお手伝いいたします。

4 3年以内に相続登記手続が終わりそうもない場合

 相続人が外国にいる場合、相続人を探し出し、相続人であることを証明する書類を収集し、相続人の理解を得て遺産分割協議を成立させ、不動産の相続登記を完了するまでには、相当の時間を要します。特に、外国に居住している直接の法定相続人が死亡し、二次相続が発生していた場合などは、二次相続には外国法が適用される場合があり、相続人の数も増えていることが多く、調査や協力依頼に想像以上の時間を要します。

 このような事情により、相続開始を知ったときから3年以内に遺産分割協議が整わず、不動産の相続登記ができない場合には、大きく2つの方法をとることが可能です。一つは、これまでも認められていた方法で、単独で法定相続分に従った相続登記を行う方法です。しかしながら、単独で法定相続分に従った登記を行う場合、善意で登記を行う人が全額の登記費用を負担しなければならず、後に法定相続分とは異なる遺産分割登記が成立した場合には、相続登記をやり直す必要が生じ、再度、登記費用が必要になるという問題がありました。また、外国籍の相続人がいる場合、法定相続分の立証資料さえ集めることができず、法定相続分に従った相続登記すら不可能な事例も多く存在しました。

 そこで、2024年4月1日からは、相続開始を知ったときから3年以内に遺産分割協議が成立せず、相続登記ができない場合には、単独で「相続人申告登記」を行うことが可能となりました(不動産登記法76条の3第1項)。これを行っておけば、3年以内の相続登記義務を履行したものとみなされ、過料の罰則が科されることはありません。但し、外国に居住する相続人を含めた遺産分割協議が成立し相続人が確定した場合には、その日から3年以内に正式な相続登記を行う必要があります。

5 ご依頼方法

 まずは法律相談で事案の内容をお聞きし、解決までの道筋をお示しします。

 初回相談料は、1時間1万1000円です。名古屋国際法律事務所では、法律相談を受けた後、安心してお帰りいただけるよう、初回相談から専門性の高い情報を提供するよう力を入れて取り組んでいるため、相談は有料とさせていただいております。