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台湾インターンシップ

記事カテゴリ:所属弁護士の活動

■投稿弁護士:布留谷 望 

 2019年5月19日~25日の日程で、台湾の法制度を視察するため、台北の寰瀛法律事務所で研修を行ってきました。
 約1週間と短い期間ではありましたが、各種裁判所や中華民国仲裁協会、公共工事委員会(調停)での期日を傍聴したり、刑事警察局や事務所での日本企業との打ち合わせに同席したりしました。その他、台北弁護士会を訪問したり、最高裁判所裁判官や周辺士業の方々との会食の機会をいただいたりと、とても充実した研修となりました。
 手続の進め方から建物の造りまで、日本との違いに驚かされることも多々ありました。その中でも特に興味深いお話を伺えたのは、台湾の弁護士会での動きについてと、日本企業に関連する会社・労働等の関連法規についてです。

 台湾には、裁判所の管轄ごとに弁護士会が存在し、その数は約20もあるそうです。法廷で職務を行うためには当該管轄区域の弁護士会に登録していなければならず、ほとんどの弁護士が複数の弁護士会に登録している状況にあります。会費は弁護士会ごとに支払う必要があり出費が膨れ上がるため、最寄りの弁護士会に1つ登録すれば、全地域で職務を行うことができるようにする議論が盛んに行われているそうです。しかし、そのような改正がなされると地方の弁護士会に登録する弁護士が減り、当然会費の総額も減少するため、地方の弁護士会から大きな反対にあっているとのことでした。日本を例に考えると、愛知県だけでみても名古屋・岡崎・半田・一宮・豊橋・春日井・瀬戸・津島・犬山・安城・豊田・新城…と、すべての裁判所所在地に弁護士会があり、全弁護士会に登録して会費を納めなければ愛知県全域で職務をおこなうことはできないことになります。県外で職鵜をするには、県外の弁護士会への登録も必要になります。この状況を想像すると、台湾で制度改革が叫ばれる現状も頷けます。
 また、台湾では現在、法科大学院制度の創設に向けた議論も進められているそうです。法教育の質の向上と門戸を広げるための施策ですが、教授をどのように確保するのか、ターゲット層や費用はどのように考えるかなど、課題は山積みであり、今後も議論が継続して行われる予定です。2019年9月には、アジア圏の複数国の弁護士会を招へいして法教育について議論をするセミナーの開催も予定されており、アジア圏全体を巻き込んだ大きな動きがみられるのか、注目が集まります。

 台湾は非常に親日的であり、日本企業も数多く台湾へ進出しています。今後もその数は増加することが見込まれますが、この研修中に「台湾に進出する日本企業の方に気を付けてほしいこと」として学んだことを、いくつかご紹介します。
まず労働法の観点から、台湾の労働者は、日本人に比べ、非常に権利意識が高いという特徴があるそうです。実際、ストライキも数多く起きています。加えて、日本とは異なり、管理職に就く者も残業代を請求することが法律上認められています。台湾人を雇用する場合には、これらの特徴を念頭に置き、より慎重な労務管理が必要となります。
 次に会社法の観点から、台湾の会社法は日本のものと類似していますが、外国人投資許可(FIA)が下りるか否かの判断に際しては、政治的な影響が出ることもあるそうです。純粋な日系企業であれば特に問題はありませんが、中国系の会社と親子関係にあるなど関連性がある場合には、審査に時間がかかったり、承認を得られないケースもあるとのことでしたので、注意が必要です。
 最後に刑法の観点から、台湾においてはセクハラ行為も刑法犯として処罰の対象となり、日本と異なり姦通罪の規定も削除されていません。姦通罪に該当する行為をすることはもってのほかですが、セクハラ行為に対しても懲役10年の刑罰が科された例もあるとのことですので、飲みの席などにおいては特に注意が必要です。
以上、各種法律に言及しましたが、労働法については毎年といっていいほど改正があるそうですし、会社法も昨年大きな改正があったばかりで実務はこれから形成されていく段階にあるとのことですので、常に最新の情報をキャッチアップする必要があります。

 その他、この研修期間中に私が訪問してきた施設等を、写真付きで簡単にご紹介します。1人でも多くの方に関心を持っていただけたら幸いです。

 寰瀛法律事務所の皆さま、本当にありがとうございました。

 寰瀛法律事務所のエントランスです。とても綺麗な事務所でした。

 

 台北高等裁判所民事部の。台北には弁護士バッジのような身分証はなく、法曹三者や書記官がみなローブを身に纏っています。裁判官が青、検察官が赤、弁護士が白というように色分けがされており、研修期間の終わりに自分専用のローブをもらえるそうです。

 

 

 刑事警察局(日本の警視庁に相当)です。捜査令状発付の申立てのために訪問しました。

 

 中華民国仲裁協会の写真です。
 事件としては、公共工事の問題が多いそうです。期間が6か月以内と限定されており、見通しがつけやすいことから、よく利用されています。

 

 台北高等行政裁判所の写真です。行政訴訟はほぼ勝ち目がなく、定型的な判決文で退けられてしまうことも多々あります。起案に時間がかからないことから、時間を持て余す裁判官が多いようで、高等行政裁判所には運動場が併設されており、裁判官がよく利用しているとのことです。

 

 台北弁護士会館の写真です。台湾では法曹三者の中で弁護士の立場が弱く、弁護士会館は、政府機関や裁判所、検察庁の集まる地域から車で20分ほど離れたところにあります。