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国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)に関する二国間共同調停

記事カテゴリ:法律知識

投稿弁護士:田邊正紀

 愛知県弁護士会紛争解決センターでは、国境を越えた子の移動に関して、2017年にイギリスのリユナイトインターナショナルと、2019年にシンガポール調停センターと二国間共同調停に関する覚書を締結しました。私は、紛争解決センター運営委員会の委員として、両覚書の締結に関与しましたので、ここで報告させていただきます。

 二国間共同調停とは、国境を越えた子の連れ去りが発生した場合に、LBP(子を連れ去られた親)とTP(子を連れ去った親)との間の子の返還をめぐる争いや子との面会交流に関する取り決めをLBPとTP、それぞれの国から1名ずつの調停人を選定して共同で行う取り組みです。

 国境を越えた子の連れ去りが発生した場合、東京家庭裁判所ないし大阪家庭裁判所に「ハーグ条約実施法による子の返還申立」を行うことができますが、返還申立手続は、実施法に定められた返還拒否事由がない限り、原則として子を常居所地国に返還する手続であるため、LBPとTPの対話を促進するものではありません。また仮に事件が調停に付されたとしても、あくまでも日本人の調停人のもとで日本の制度を前提に協議を進めなければなりません。日本では、離婚後は単独親権しか認められず、面会交流は原則として月1回程度しか認められていないのが現状であるのに対し、諸外国では、離婚後の親権(監護権)は原則として共同で行使する(共同親権)とされ、面会交流という考え方ではなく、監護時間の分担という考え方が取られていることから、多くの外国人が、このような制度的背景を有する日本での調停には不信感を抱くようです。

 一方、二国間調停の場合には、LBP及びTPそれぞれが慣れ親しんだ制度や文化的背景を理解する2人の調停人が共同で調停を行うことで、どちらか一方の制度や文化的背景に依拠しない事案の解決が可能となり、特にLBPにとっても不公平感のない話し合いが可能となります。

 とはいっても、子の監護権や面会交流に対する考え方は国ごとに多種多様であることに加え、調停制度の仕組みも国際的に統一されたものはないことから、共同で調停を行うといってもそれほど簡単なことではありません。

 例えば、愛知県弁護士会紛争解決センターの一般的なあっせん手続では、申立人はセンターに対して申し立てを行い、センターが申し立てを受理すれば原則としてあっせん(調停)が開始され、弁護士があっせん人に選任されます。その後、弁護士である代理人の同席も認められた上で、原則として当事者同士が顔を合わせることのない別席で、数週間に1回の頻度で3回から4回にわたり、あっせん手続が行われます。成立した合意については民法上の和解契約としての法的拘束力はありますが、執行力(裁判を経ないで強制執行できる効力)はなく、調停で話し合われた内容や提出した証拠は秘密として扱われますが、当事者が後の裁判で調停の内容を裁判所に報告することは制限されていません。

 一方、リユナイトインターナショナルの一般的な調停手続では、裁判所から付託された事件のみを扱い、調停に向いた案件か否かの個別面談(スクリーニング)を行った上で調停が開始され、弁護士以外の調停の専門家が調停人を務めます。数週間に1回の割合で調停期日が開催されますが、調停期日には当事者の代理人である弁護士の同席も認められず、原則として当事者と調停人のみが同席して手続が行われます。調停で成立した合意には拘束力がなく、両当事者が裁判所の「合意命令」を取得しなければ、法的拘束力も執行力も生じません。調停で話し合われた内容や提出された証拠は、厳格に秘密とされ、後の裁判で利用することが禁止されます。

 シンガポール調停センターの場合、裁判所から付託された事件のみを扱いますが、スクリーニングのような手続はなく調停が開始されます。調停人は弁護士に限られておらず、調停期日は原則として連続した2日間に集中的に開催され、弁護士以外のアドバイザーの同席も認められ、別席か同席かはフレキシブルに決定されているようです。また、成立した合意は和解契約としての拘束力を持ち、調停で話し合われた内容や提出された証拠は、厳格に秘密とされ、後の裁判で利用することが禁止されるなど、日本とイギリスの中間に位置する制度を採用しています。

 二国間共同調停の取組は、このような調停制度の違いを乗り越えて両当事者が満足できる公平感のある協議の場を提供しようとする画期的なものです。私はこれら二国間共同調停の制度設計にかかわってきた立場として、日本人にとっても、国際標準に沿った手続と内容での紛争解決が望めるという意味で大いに活用すべき制度ができたと自負しております。

 当事務所では、国境を越えた子の移動に関するハーグ条約事件も多く取り扱っておりますので、二国間共同調停の利用も含め、お困りの際にはご相談いただければと思います。